Essay 7 of 門脇 仁 オフィシャルサイト




理学部の教室から

 東京理科大「環境2 環境と文化」で伝えたこと




 文筆業の私が講師もするようになったのは、東京理科大学での授業がきっかけである。
 理学部理学第一部の「環境2」の授業は、隔年ごとに開かれるオムニバス授業。オムニバスなので何人かが交替で講義をしていくのだが、私がその講師陣に加えていただいて6年になる。
 教室は日仏学院の近くの学舎から、いまは新築の3号館に移っている。東京理科大の神楽坂キャンパスといえば、かつて北原白秋の詩集『東京景物詩』で「物理学校裏」という詩に謳われた場所だ。また夏目漱石ともゆかりの深い土地ゆえ、東京理科大で発行されている科学ライブラリーは「坊ちゃん選書」の名がついている。

 私の講義ではこれまで、「環境と倫理」、「環境と開発」というテーマでシラバスを組んできたが、今年は「環境と文化」という主題を選んだ。これは前期に法政大学のゼミで行ったテーマと同じである。
 授業では毎回パワーポイント資料を使う。教室のあちこちのプロジェクターでそれを映し出しながら、ときには噛んで含めるように、ときには熱弁をふるって講義する。図表、写真、動画、またときには音楽や香料まで導入して、知覚とイメージに同時に訴えながら授業を進めていく。毎回、授業の最後に出席票を配り、学生たちに感想や意見を書いてもらっているが、ヴィヴィッドな反応がとてもよく伝わってくる。
 「環境の現実に目を開かされた」
 「ショッキングな映像もあったけれど、地球環境の課題を直視するきっかけになった」
 「理科系と文科系の仕切りを超えた内容が面白かった」
 手前味噌になるが、そんな嬉しい反応もある。なかには「先生の講義を聴いて、将来の道が決まった」という学生もいた。
 何度かやりとりを重ねるうち、私にも学生たちにどうしても伝えたい思いが湧きあがってくる。今年も講義を進めるうちに、自然とそうなった。ちょうど先日、今年度の私の講義のしめくくりとして、学生たちに最後の5分ほど私の考えを伝えたところだ。それをここに引用してみたい。これまでに「環境と倫理」、「環境と開発」の総括として話してきたことも、一部取り込んでまとめてある。地球環境問題に対する私の思いも語っているので、読者の皆さんにもぜひご一読いただければ幸いである。

 【「環境2 環境と文化」 総括】

 さて、この授業では、自然史や環境思想の歴史から散逸構造理論にいたるまで、ありとあらゆる角度から地球環境を考えてきました。私の「環境2」の講義も、そろそろ終わりです。
 そこで最後に、この写真を見てください。これはもうだいぶまえに、私が南太平洋の島嶼国キリバスで撮ったものです。
美しい環礁でできた国。どこへ行っても子どもたちの笑顔がまぶしい国です。見ず知らずの人にも、こうして人なつっこい笑顔を向けてきます。
 近年、こうした南太平洋の島々が水没しつつあるといわれてます。実際に行ってみてわかったのは、人口が急激に増えたうえ、貧困から上水インフラも未整備だということ。井戸による地下水の過剰汲み上げで、地盤沈下が年々進んでます。海面上昇のあるなしに関らず、この島が沈んでいるのは、そもそも地盤沈下のせいなんです。

 ところが「沈んでいない」という人たちもいる。「地球温暖化には科学的根拠がない。海面上昇が起こっていないから、島も沈んでいないはずだ」と。こういう人は地下水のことなど頭になくて、いま世間で話題になっている地球温暖化と海面上昇の関係だけしか見ていないわけです。
 一度も現地へ行ったことのない人が、途上国の厳しい暮らしの現実や、切迫した環境事情を知ろうともせず、机上の空論をふりかざして環境問題を否定している。しかもその論理には、しばしば大きな欠落・誇張・すりかえまで見られます。これではとうてい科学的態度とは言い難い。
 メディアや企業がよく使う「地球にやさしい」というキャッチコピーも、もともと「人間にやさしい」ということにすぎません。しかし地球規模で人間の生活実態を見れば、「ヒトにやさしい」だけでもかなり難しいことです。まして「地球にやさしい」なんてきれいごとを言う人は、むしろ地球環境のことなど何も見ていないに等しい。
 つまり環境問題というのは、まず自分の目で見て、自分の足で歩き、自分で現地の人とコミュニケーションしながら考えなければ、どこでどう自分の暮らしとつながっているのかが実感できないんですね。もし行くのがムリなら、想像力を働かせることです。その気になれば、たとえばこんな一枚の写真からでも、暮らしや環境のさまざまな現実が見えてくる。そしてこの子たちの笑顔を絶やさないためにはどうすればいいのか、それを本気で考え詰めることができます。

 地球のエコシステムを維持するうえで一番大切なのは、この《環境想像力》です。
 私が授業で扱ってきたシステム理論的な科学と思想、共生を説く文学や視聴覚芸術、資源循環型のライフスタイル、さらに環境国際協力といった取り組みは、すべてこの《環境想像力》というところに行き着きます。それを育むことのできるのが、広く新しい意味での《文化》だといえるでしょう。

 この授業を履修した皆さんは、卒業後、企業に行く人もいれば、教職に就く人もいる。大学に残って研究する人もあるでしょう。どんな業種を選んでも、いまや環境問題を避けては通れません。ならば日本の科学技術をリードできる人間として、いつでもバイオスフィア(地球生命圏)の視野から社会を眺め、将来世代の環境に少しでも役立つイノベーションを生み出せる人になってほしい。心意気だけでもね、そういうものを持っていてもらいたいわけです。
 そして将来、皆さんがそれを実行できるかも知れない立場になったとき、思い出してください。「そういえば大学時代、途上国の少女の写真を見せながら、環境想像力について力説していた奴がいたなあ」と(笑)。

 講義のしめくくりにあたって、それが私から皆さんへのメッセージです。朝早くからの授業なのに、毎回熱心に聴いてくれてありがとう。皆さんとめぐりあえて、本当に良かったと思います。

12月18日(火)第1時限 
東京理科大学神楽坂第3校舎321号教室にて

(2013.1.4)


















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東京理科大学
(神楽坂校舎)






















































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キリバスの首都タラワで































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理科大からの夕景